3月30日付の読売新聞1面に掲げられた「デジタル教科書に警鐘 有識者が提言」という見出しに目が留まりました。
学校ともつながりのある図書館ですので、少し興味をもって提言を読んでみました。
◆タイミングを見計らった?
新聞記事は、政府が今国会で、デジタル教科書を正式な教科書として位置づける法案を提出しようとしている、まさにそのタイミングで、文化人や教育関係者らで構成される「活字の学びを考える懇談会」(浅田次郎会長)が、デジタル教科書への懸念をまとめた冊子を発行したという内容です。
国民的な議論につなげたいという強い問題意識が、紙面からも伝わってきます。
冊子はインターネット上でも公開されています。
https://www.mojikatsuji.or.jp/wp/wp-content/uploads/2026/03/digitalkyoukashowotoinaosu0407.pdf
◆論客揃いの提言集
巻頭言を寄せているのは読売新聞社の社長です。
ここまでの国の進め方について、「検証もなくデジタル教科書の導入ありきで議論が進んだ」「紙の教科書とデジタル教科書のベストミックスとはどのようなものか、誰も確信をもって具体像を描けない」と、厳しい評価を示しています。
続く提言では、脳科学研究の第一人者として知られる川島隆太・東北大学教授をはじめ、研究者、教育関係者、マスコミ関係者、元大臣など、錚々たる顔ぶれが名を連ね、主にデジタル教科書導入による子どもの学力低下を危惧する論調が続きます。
◆国会審議の行き先は?
正直、このメンバーを“相手に回す”となれば、政府としても容易ではないだろうと感じさせるラインナップです。
その分、この冊子が国会審議にどのような影響を及ぼすのか、非常に興味深いところでもあります。
さらに提言者の中には、文部科学省のデジタル教科書検討会議の委員も含まれており、国の会議そのものが内部で揺れていたのではないかと想像してしまいます。
むしろ国側も、こうした「反対意見」が一定の規模になることを見越したうえで、あえて国会での審議に付し、「国民的な議論」へと広げる構図を描いていたのではないか――そんな思いすら抱かされました。
◆図書館では…
こうした動きは、図書館にとっても決して“遠い世界の話”ではありません。
学校教育の具体的な運用に踏み込むことはできないものの、自治体によっては紙の本に加えて電子書籍を導入し、パソコンやスマートフォンさえあれば「いつでも・どこでも読書ができる」環境づくりを進めています。
学校図書館と公共図書館の双方で、読書のデジタル化が着実に広がっているのは確かな流れです。
電子書籍の有無にかかわらず、本の検索、蔵書管理、予約受付といった図書館の基盤業務はすでにデジタル化が不可欠となっています。
当館も例外ではなく、日々の運営はデジタル技術と切り離せない段階に入っています。
今回のデジタル教科書の議論を持ち出すまでもなく、社会全体がアナログからデジタルへと重心を移し続けていることは、多くの方が実感していることでしょう。
だからこそ、いま「やっぱり教科書(読書)は紙がいい」という声が上がったことは、ほぼアナログ(紙)専門の図書館として見過ごせない動きです。
デジタル化が進むほど、紙の価値がむしろ浮かび上がってくるとするなら、図書館の存在意義も相対的に高まっていくのではないか――そんな思いを抱かずにはいられません。
◆「読書」を見直す機会として
今回のデジタル教科書導入をめぐる議論が、教科書だけでなく、私たちの“読書”や“情報との向き合い方”そのものを見直す契機になるのではないか。
そうした期待を込めて、当館蔵書から読書の価値を語る一冊を紹介したいと思います。

『読書する人だけがたどり着ける場所』(齋藤孝著/SB新書 2019年)
読書と言えばやはりこの方でしょう。
読書に関する著作では、今や第一人者と言える齋藤氏が、インターネットでは得られない読書の効用を、豊富な経験と具体例を交えて語っています。
デジタル全盛の時代だからこそ、紙の本がもたらす深い思考力や集中力の価値を再確認させてくれる内容です。
さらに、当館の5月新着図書には、こんな一冊も並ぶ予定です。

『科学的根拠が教える子どものすごい読書』(猪原敬介著/日経BP 2026年)
教育心理学や認知科学の知見から、読書が子どもの発達にどのような影響を与えるのかを丁寧に解説した本です。
デジタル教科書導入の議論とも地続きのテーマであり、読書が持つ力を科学的に裏付ける内容となっています。
デジタル教科書導入の法案は4月7日に閣議決定され、これから国会での本格的な審議が始まるようです。
中東情勢や物価問題など、差し迫った課題に意識が向きがちなこの頃ですが、この国の未来の学びを左右する重要な法案でもあります。
図書館としても、社会の動きを見つめながら、紙とデジタルの双方が生きる“より良い学びの環境”について考え続けていきたいと思います。